はじめに:無料BIツール Looker Studioとは?
ビジネスの世界では、日々たくさんのデータが生み出されています。しかし、ただデータを集めるだけでは意味がありません。そのデータを分析し、誰にでも分かりやすい形にして、ビジネスの判断に活かすことが重要です。そんな時に役立つのがBI(ビジネスインテリジェンス)ツールです。
BIツールとは、簡単に言うと「データを分かりやすく見せて、分析を手伝ってくれる道具」のこと。企業が持つ様々なデータを集め、グラフなどで視覚化し、分析することで、データに基づいたより良い意思決定や問題解決をサポートします。
今回ご紹介するLooker Studio(ルッカースタジオ)は、Googleが提供しているBIツールの一つです。以前は「Google データポータル」という名前でしたが、2022年10月に現在の名称に変更されました。
Looker Studioの最大の魅力は、「無料」で使えて、「専門知識がなくても比較的カンタン」にデータ分析やレポート作成ができる点です。特別なライセンス契約は不要で、Googleアカウントさえあれば、誰でもすぐに利用を開始できます。
Looker Studioを使えば、例えば以下のようなことが可能になります。
- Webサイトのアクセス状況(Google アナリティクス)
- 広告の成果(Google 広告)
- 顧客アンケートの結果(Google スプレッドシート)
- 売上データ(CSVファイルなど)
これらのデータを、見やすく、共有しやすく、自由にカスタマイズできるダッシュボード(複数のグラフや表をまとめた画面)やレポートにまとめることができます。
Looker Studioの始め方:アカウント作成からレポート作成画面まで
Looker Studioを始めるのはとても簡単です。
- Googleアカウントの準備: Looker Studioを利用するにはGoogleアカウントが必須です。まだお持ちでない場合は、先にGoogleアカウントを作成しておきましょう。(Gmailアカウントなど、既存のアカウントで問題ありません)
- Looker Studioへアクセス: ウェブブラウザでLooker Studioの公式サイトにアクセスします。
- 利用開始: 画面の指示に従って、アカウント情報の確認や利用規約への同意などを行います。
- ホーム画面へ: 登録が完了すると、Looker Studioのホーム画面が表示されます。ここから新しいレポートを作成したり、過去に作成したレポートやデータソース(後述します)を管理したりできます。
- 新しいレポートの作成: ホーム画面左上にある「+作成」ボタンをクリックし、「レポート」を選択します。または、画面中央付近にある「空のレポート」をクリックしても、新しいレポート作成を開始できます。
これでレポート作成の準備が整いました。
ステップ1:データに接続する - レポートの「材料」を用意しよう
Looker Studioは、それ自体にデータを持っているわけではありません。料理で例えるなら、Looker Studioは「調理器具」や「お皿」のようなもの。レポートを作るには、まず「材料」となるデータを用意し、Looker Studioに「このデータを使ってね」と教えてあげる必要があります。この作業がデータ接続です。
データ接続を理解するために、重要な3つの要素を見ていきましょう。
1. コネクタ (Connector):データとLooker Studioを繋ぐ「橋渡し役」
コネクタとは、Looker Studioと、元となるデータ(例:Google アナリティクス、スプレッドシートなど)を接続するための部品です。このコネクタを通じてデータに接続することで、Looker Studio上でデータを扱えるようになります。
コネクタには大きく分けて2種類あります。
- Google コネクタ(無料): Googleが公式に提供しているコネクタです。Google アナリティクス、Google スプレッドシート、BigQuery(Google Cloudのデータウェアハウスサービス)、Google 広告、サーチコンソール、YouTubeアナリティクスなど、主要なGoogleサービスに対応しており、すべて無料で利用できます。初心者の方は、まずはこちらのコネクタから試してみるのがおすすめです。
- パートナー コネクタ(旧:コミュニティ コネクタ): Google以外の企業や開発者が作成・提供しているコネクタです。Facebook広告やInstagram Insights、MySQLデータベースなど、Googleコネクタだけでは接続できない様々なデータソースに接続できます。非常に多くの種類がありますが、一部有料のものも含まれます。
また、CSVファイル(カンマ区切りテキストファイル)形式のデータであれば、直接Looker Studioにアップロードして利用することも可能です。
2. データソース (Data Source):Looker Studioがデータを扱うための「設計図」
コネクタを使って元データに接続すると、Looker Studio内にデータソースが作成されます。これは、「どのコネクタを使って、どのデータに接続しているか」という情報や、そのデータに含まれる項目(フィールドと呼びます)の種類などを定義した、いわばデータの「設計図」のようなものです。
データソースには2つのタイプがあります。
- 埋め込みデータソース: レポートの中にデータソースの情報が一緒に保存されるタイプです。レポートをコピーしたり、他の人と共有したりするのが簡単になります。特別な理由がなければ、通常はこちらを使うのが便利です。
- 再利用可能なデータソース: データソースを独立した部品として作成・管理するタイプです。同じデータソースを複数のレポートで使い回したい場合に便利です。例えば、会社全体で使う売上データの定義を一つ作っておき、各部署がそのデータソースを使ってレポートを作成する、といった使い方ができます。
Looker Studioのレポートでは、複数のデータソースを同時に利用することも可能です。例えば、「Google アナリティクスのアクセスデータ」と「Google スプレッドシートの売上データ」を組み合わせて、Webサイトへのアクセスが売上にどう繋がっているかを分析する、といったことができます。
3. データの認証情報 (Data Credentials):データへの「アクセス許可証」
元となるデータには、誰でもアクセスできるわけではありません。例えば、会社の機密情報が含まれるデータなど、アクセス権限が設定されている場合があります。データの認証情報は、Looker Studioがそのデータにアクセスする際に、「誰の権限でアクセスするか」を設定するものです。
主に以下の3つのオプションがあります。
- オーナーの認証情報: データソースを作成した人(オーナー)の権限でデータにアクセスします。レポートを共有された人は、元のデータへのアクセス権がなくてもレポートを見られる場合があります。信頼できる相手とレポートを共有する場合に適しています。
- 閲覧者の認証情報: レポートを見る人自身の権限でデータにアクセスします。この場合、レポートを見る人それぞれが、元のデータへのアクセス権を持っている必要があります。より厳密な権限管理が必要な場合に利用します。
- サービスアカウントの認証情報: 少し高度な設定で、特定のプログラム(サービスアカウント)の権限でアクセスします。システム連携などで利用されることがあります。
初心者の方や、個人・少人数で利用する場合は、「オーナーの認証情報」を使うのが一般的で分かりやすいでしょう。
レポートにデータを追加する手順:
- レポート編集画面で、「データを追加」ボタンをクリックします。
- 利用したいコネクタ(例: Google アナリティクス, Google スプレッドシート)を選択します。
- 画面の指示に従って、アカウントの選択や接続したい具体的なデータ(例: アナリティクスの特定のプロパティ、スプレッドシートの特定のシート)を選びます。
- 接続設定が完了すると、データソースがレポートに追加されます。
ステップ2:レポートを作成する - データを「見える化」しよう
データソースの接続が完了したら、いよいよレポート作成の本番です。Looker Studioのレポート編集画面(レポートエディタ)は、グラフや表などの部品(コンポーネント)を、マウスでドラッグ&ドロップして配置できる直感的なインターフェースになっています。
レポートに追加できる主なコンポーネント
- グラフ: データを視覚的に表現する主役です。棒グラフ、折れ線グラフ、円グラフ、地図、表(テーブル)、スコアカード(重要な数値を大きく表示)など、様々な種類があります。
- コントロール: レポートを操作するための部品です。期間設定(例: 「今月」「先月」を選ぶ)、フィルタ(例: 「特定の地域だけ表示」)、プルダウンリストなどがあり、レポートをインタラクティブ(対話的)にします。
- その他: テキストボックス(見出しや説明文を追加)、画像(ロゴなどを挿入)、図形(レポートのデザインを調整)なども配置できます。
グラフ作成のキホン:「ディメンション」と「指標」
グラフを作成する上で、必ず理解しておきたいのが「ディメンション」と「指標」という2つの概念です。Looker Studioのデータソース設定画面やグラフ設定画面では、通常、ディメンションは緑色、指標は青色のフィールド(項目)として表示されます。
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ディメンション (Dimension): データを「どのような切り口で分類するか」を示す項目です。いわば、グラフの「軸」や表の「行・列の見出し」になります。
- 例:「都道府県」「性別」「商品カテゴリー」「キャンペーン名」「日付」「曜日」「デバイス(PC/スマホ)」など。
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指標 (Metric): 集計や計算が可能な「数値」のデータです。グラフの「棒の高さ」や「線の位置」、「円グラフの割合」などを表します。
- 例:「人口」「売上金額」「アクセス数」「クリック数」「コンバージョン数」「顧客単価」「クリック率」など。
この2つの関係は、「●●(ディメンション)別の ××(指標)を見たい」という形で考えると分かりやすいでしょう。
- 例:「都道府県(ディメンション)別の人口(指標)」→ 日本地図グラフや棒グラフ
- 例:「日付(ディメンション)別のアクセス数(指標)」→ 折れ線グラフ
- 例:「商品カテゴリー(ディメンション)別の売上金額(指標)」→ 円グラフや棒グラフ
グラフの種類を選び、適切なディメンションと指標を設定することで、データが意味のある情報として視覚化されます。
レポートのカスタマイズとインタラクティブ機能
Looker Studioでは、レポートのデザインも自由に変更できます。
- スタイルとテーマ: グラフの色、文字のフォントやサイズ、背景色などを細かく調整できます。レポート全体の配色テーマを統一することも可能です。
- レイアウト: グラフやコントロールの配置、サイズ、ページ構成などを自由に設計できます。テキストや画像を追加して、レポートに注釈を入れたり、会社のロゴを入れたりすることも可能です。
- インタラクティブ機能: 期間設定コントロールやフィルタコントロールを配置することで、レポートの閲覧者が自分で表示期間を変更したり、見たいデータ(例: 特定の地域や商品)に絞り込んだりできるようになります。これにより、静的なレポートではなく、対話的にデータを探索できるインタラクティブ・ダッシュボードを作成できます。
【実践例】ブログのアクセス状況を可視化してみよう(Google アナリティクス連携)
ここでは、ご自身のブログのアクセス状況をGoogle アナリティクス(GA4)と連携してLooker Studioで可視化する簡単な例をご紹介します。
目標: 「ブログ全体のアクセス数の推移」と「よく読まれている記事ランキング」をダッシュボードで確認できるようにする。
手順:
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データ接続:
- Looker Studio画面で下方にある「新しいレポートを作成」又はテンプレートを使って開始の下にある「空のテンプレート」をクリックし、データのレポートへの追加ウインドウを表示。
- コネクタ一覧から「Google アナリティクス(以後、GA4と呼ぶことにする。)」クリックし選択。
- GA4データ認証情報の画面が表示されますので、「承認」をクリック。
- Googleのログイン画面が表示されますので、何時もお使いのGA4を選択しクリック。
- GA4のアカウントが複数ある場合は、接続したいアカウントをクリック。
- 接続したいGA4の「アカウント」に紐づいた「プロパティ」が複数存在する場合は、接続したいブログの名前をクリックし、右下の「追加」ボタンをクリック。これで、GA4のデータソースがレポートに追加されました。画面右側にデータソースのフィールド(ディメンションと指標)一覧が表示されます。
- 左のレポートの上部にある「自由形式レイアウト」又は「レスポンシブレイアウト」のどちらかを選択してクリック。ここでは、「レスポンシブレイアウト」をクリック。
ここまで、上述の操作をした後の画像下記に示します。
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グラフ①:アクセス数の推移(時系列グラフ)
- レポート編集画面上部のメニューから「グラフを追加」をクリックし、「期間グラフ」を選択します。
- デフォルトでレポートに左隅に表示回数の推移のグラフが表示されます。
- 表示されたグラフの右上部の「縦三点マーク」をクリックし、コピーして貼り付けると同じグラフが2つ表示されますので、2つのグラフを上部に並んで配置します。
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配置したグラフの右のグラフを選択した状態で、右の設定タブを確認します。
- データソース: 先ほど追加したGoogle アナリティクスのデータソースが選択されていることを確認します。
- ディメンション: 「日付」(Date)が自動で設定されていることが多いですが、もし異なっていたら、フィールド一覧から「Date」をドラッグ&ドロップします。
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指標:指標が「表示回数」担ているので、「表示回数」をクリックして現れる検索欄に「アクティブ 」と入力して、表示される選択項目から「30日間のアクティブユーザー数」をクリックして選択。これで、指定した期間のアクセス数の推移を示す折れ線グラフが作成されます。
ここまで、上述の操作をした後の画像下記に示します。
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グラフ②:人気記事ランキング(テーブル)
- 上部メニューから「グラフを追加」をクリックして、「表」を選択し、配置します。
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グラフ設定パネルで設定します。
- ディメンション: 「日付」をクリックして表示される検索欄に「ページ」と入力して表示される項目から「ページ タイトル」をクリックし選択。
- 指標: 「表示回数」(Views)以外に「指標を追加」から「エンゲージメント率」、「セッション」、「新規ユーザー数」、「イベント数」などをドラッグ&ドロップ。表を右に伸ばし、見やすくします。
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これで、記事タイトル別に表示回数やエンゲージメント率などが表示される表が作成されます。表示回数で並べ替えれば、人気記事ランキングになります。(テーブルのヘッダーをクリックすると並べ替えできます)
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表を選択した状態で、上部メニュ―から「グラフの追加」をクリックして「横棒グラフ」と「ドーナツグラフ」を選択して追加し配置。ドーナツグラフは、「ディメンション」に「デバイスカテゴリ」を選択。
ここまで、上述の操作をした後の画像下記に示します。
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コントロール:期間設定
- レポートの右上に「期間設定」のコントロールがすでに配置されています。
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これにより、レポートの閲覧者が「開始日」と「終了日」を自由に設定することにより「先月」「過去30日間」などに期間を変更すると、上記で作成したグラフやデータも連動して更新されます。
下記の図は、開始日を「2,025年1月1日」に設定したレポートです。
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レポートのタイトル設定とデザイン調整
- 左上部の「無題のレポート」をテキストツールを使って分かり易いタイトルに変更します。
- また、「レポートのタイトルを追加と書かれた部分」を分かり易いレポートタイトルに変更します。
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必要に応じて、グラフの色やサイズ、配置などを調整して見やすくします。全体のテーマなどを変更するとレポートの全体の雰囲気が大きく変わります。
これで、ブログのアクセス状況を把握するための基本的なダッシュボードが完成しました!この例を参考に、さらに「参照元/メディア別のアクセス数」や「デバイス別のユーザー数」など、知りたい情報をグラフに追加していくことができます。
ステップ3:レポートを共有する - 分析結果をみんなに伝えよう
苦労して作成したレポートも、他の人に見てもらえなければ意味がありません。Looker Studioは、作成したレポートを簡単に共有できる点も大きなメリットです。
主な共有方法には以下のようなものがあります。
- ユーザーを招待: 特定のGoogleアカウントを持つユーザーを招待し、「閲覧者」または「編集者」の権限を与えることができます。編集者権限を与えれば、複数人でリアルタイムに共同編集することも可能です。
- リンクを取得して共有: レポートへのアクセスリンクを生成し、メールやチャットなどで共有できます。リンクを知っている人全員に公開したり、特定のドメイン(例: 会社内)のユーザーのみに制限したりすることも可能です。
- ウェブサイトへの埋め込み: 生成されたHTMLコードを使って、自社のウェブサイトやブログなどにレポートを埋め込むことができます。
- PDF形式でダウンロード: レポートをPDFファイルとしてダウンロードできます。会議資料として印刷したり、メールに添付したりする際に便利です。
- 定期的なメール配信: 設定したスケジュール(例: 毎週月曜日の朝)に、レポートのPDFを自動的にメールで送信するよう設定することも可能です。
目的に合わせて最適な共有方法を選びましょう。
まとめ:Looker Studioでデータ活用の第一歩を踏み出そう!
今回は、無料BIツールLooker Studioの基本的な使い方を、データ接続からレポート作成、共有まで一通りご紹介しました。
Looker Studioは、
- Googleアカウントがあれば誰でも無料で始められる
- プログラミングなどの専門知識がなくても直感的に操作できる
- 様々なデータソースに接続できる
- 見やすいグラフやインタラクティブなレポートを簡単に作成・共有できる
といった特徴を持つ、非常に強力で使いやすいツールです。
もちろん、より高度な分析や複雑な設定も可能ですが、まずは今回ご紹介した基本的な操作をマスターするだけでも、日々の業務におけるデータ分析やレポート作成の効率を格段に向上させることができるはずです。
「データ分析って難しそう…」と感じていた方も、ぜひこの機会にLooker Studioに触れて、その手軽さと便利さを体験してみてください。Looker Studioは、あなたのビジネスにおけるデータ活用の素晴らしい第一歩となるでしょう。
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