Gemini CLIとは?使い方から応用、ライバル比較まで徹底解説【Google製AIエージェント入門】

AI
この記事は約33分で読めます。

Gemini CLIとは?使い方から応用、ライバル比較まで徹底解説【Google製AIエージェント入門】のPodcast

下記のPodcastは、Geminiで作成しました。

はじめに:開発者の「第二の脳」となるか?GoogleのGemini CLI登場

多くの開発者にとって、コマンドラインインターフェース(CLI)は単なるツールではなく、日々の業務の基盤、いわば「ホーム」のような存在です 1。その効率性、汎用性、可搬性は、開発作業に不可欠です。この開発者の中心地に、AIによる統合支援の需要が高まる中、Googleは2025年6月、Geminiの強力な機能をターミナルに直接統合するオープンソースAIエージェント「Gemini CLI」を発表しました。

Gemini CLIは、プロンプトからGoogleのAIモデルへの「最も直接的な経路」を提供し、単なるコーディング支援にとどまらない多機能なローカルユーティリティとして設計されています 。コンテンツ生成、問題解決、詳細なリサーチ、タスク管理まで、開発者の幅広い活動を支援します 。このツールの登場が大きな注目を集める理由は、3つの柱に集約されます。第一に、最新かつ強力な「Gemini 2.5 Pro」モデルを搭載していること。第二に、そのソースコードが完全に公開されたオープンソース(Apache 2.0ライセンス)であること 7。そして第三に、個人開発者にとっては破壊的とも言える寛大な無料利用枠が提供されていることです。

このツールの登場は、単なる新製品のリリース以上の意味を持ちます。これは、Anthropic社の「Claude Code」やOpenAIの「Codex CLI」に続く、主要AIラボによる「ターミナルエージェント」という新しいツールカテゴリの本格的な幕開けを告げるものです 。これまでのIDE(統合開発環境)に組み込まれたAIアシスタントとは一線を画し、エディタに依存せず、ローカルファイルの読み書きやコマンド実行を通じて開発環境全体と対話できる、より自律的な存在です。

本記事では、このGemini CLIの基本概念からセットアップ方法、日常業務を加速させるコマンド群、そしてその真価を引き出す高度なカスタマイズ術までを網羅的に解説します。さらに、熾烈な競争が始まったライバル製品との比較や、現時点での課題と限界についても公平な視点で分析し、Gemini CLIがもたらす開発の未来を展望します。

Gemini CLIの核心:なぜ「ゲームチェンジャー」なのか?

Gemini CLIが単なる便利なツールではなく、開発のあり方を変える可能性を秘めた「ゲームチェンジャー」と目される理由は、その根幹をなす技術的・戦略的特徴にあります。

思考し、行動するエージェント(ReActループ)

Gemini CLIは、単純な入力に対して出力を返すだけのツールではありません。その内部では「Reason and Act (ReAct) ループ」と呼ばれる思考プロセスが働いています。これは、複雑なタスクを与えられた際に、まず「思考(Reason)」して計画を立て、その計画に基づいてファイル操作やコマンド実行などの「行動(Act)」を起こし、その結果を評価して次の行動を決定するというサイクルを繰り返す仕組みです。この自律的な問題解決能力こそが、Gemini CLIを単なるアシスタントではなく「エージェント」たらしめる核心的な機能です。

100万トークンの広大な記憶力

Gemini CLIは、標準でGoogleの高性能モデル「Gemini 2.5 Pro」を利用しており、その最大の特徴の一つが100万トークンという広大なコンテキストウィンドウ(一度に扱える情報量)です 5。これは、大規模なコードベース全体を読み込ませてアーキテクチャについて質問したり、長時間の対話でも文脈を失わずに一貫した応答を得たり、プロジェクト全体にわたる複雑なリファクタリング(コードの整理・改善)を指示したりすることを可能にします 8。この「記憶力」が、これまでのAIツールでは困難だった、より高度で広範囲なタスクの実行を支えています。

Google検索との連携

多くのAIモデルが抱える「知識のカットオフ問題」(学習データがある時点のものであるため、最新情報に疎い)を、Gemini CLIはGoogle検索とのネイティブ統合によって克服しています 1。プロンプトに応じてリアルタイムにWeb検索を行い、最新のドキュメントや技術ブログ、エラーメッセージに関する議論などを参照して回答を生成することができます。これにより、「最新バージョンのライブラリにおける破壊的変更点を要約し、自分のコードを修正してほしい」といった、鮮度が重要な要求にも正確に対応可能です。これは、Googleが持つ最大の資産である検索インデックスを最大限に活用した、競合には真似のできない強力なアドバンテージです。

マルチモーダル機能

Gemini CLIの能力はテキストに限定されません。PDFのドキュメントや仕様書、さらには手書きのスケッチといった画像ファイルを読み込み、そこから新しいアプリケーションを生成するマルチモーダル機能を備えています。これにより、アイデアを具体的なコードに落とし込むプロセスが劇的に短縮される可能性があります。

オープンソースと拡張性

Gemini CLIは、透明性の高いApache 2.0ライセンスの下でオープンソースとして公開されています。これにより、開発者は内部の仕組みを理解し、セキュリティ上の懸念を自ら検証し、コミュニティに貢献することが可能です。さらに、拡張性の核として「Model Context Protocol (MCP)」という新たな標準をサポートしています。MCPは、AIエージェントが外部のツールやデータベース、サービスと構造化された方法で連携するための「共通言語」です。これにより、将来的に様々なツールが相互運用可能な、開かれたエコシステムが形成されることを見据えています。

これらの特徴は、単なる機能の寄せ集めではありません。Googleの独自資産(検索、大規模モデル)で性能的な優位性を確保しつつ、オープンな標準(オープンソース、MCP)で開発者コミュニティの支持とエコシステムの拡大を狙うという、計算された二正面戦略が背景にあります。これにより、Gemini CLIは強力かつ多くの開発者に受け入れられるプラットフォームとなることを目指しているのです。

実践!Gemini CLIセットアップ&ファーストコンタクト

Gemini CLIの導入は驚くほど簡単で、数分で最初の対話を始めることができます。ここでは、初心者でも迷わないように、その手順を解説します。

前提条件

Gemini CLIを実行するための唯一の要件は、Node.jsのバージョン18以上がインストールされていることです 。ターミナルで以下のコマンドを実行して、バージョンを確認できます。

Bash

 
node -v

インストール

最も手軽な方法は、npxコマンドを使用することです。このコマンドは、Gemini CLIを一時的にダウンロードして実行するため、システムに恒久的なインストールを行いません。

Bash

 
npx https://github.com/google-gemini/gemini-cli

今後、頻繁に使用する場合は、グローバルにインストールしておくと便利です。

Bash

 
npm install -g @google/gemini-cli

認証

初めてgeminiコマンド(または上記のnpxコマンド)を実行すると、認証プロセスが開始されます。

  1. ターミナルに認証用のURLが表示されます。
  2. そのURLをコピーして、普段使用しているWebブラウザで開きます。
  3. Googleアカウントでのログインを求められるので、個人のGoogleアカウントでサインインします。

このシンプルな認証プロセスを経るだけで、後述する非常に寛大な無料利用枠へのアクセスが許可されます。APIキーの生成やクレジットカードの登録といった、多くの開発者向けツールで必要とされる煩雑な手続きが不要な点は、導入のハードルを劇的に下げています。この手軽さは、多くの開発者に迅速に普及させるための戦略的な特徴と言えるでしょう。

最初の対話

認証が完了すると、ターミナルに>というプロンプトが表示され、対話モードに入ります。早速、簡単な質問をしてみましょう。

> 日本の首都はどこですか?

上述の回答は、「東京です」でした。

あるいは、簡単なコーディングタスクを依頼してみます。

> 1から10までの素数をリストアップして

上述の回答は、「 2, 3, 5, 7」でした。

Geminiが即座に応答を返すはずです。これで、あなたの開発環境に新しいAIエージェントが常駐するようになりました。草原を

上述の質問以外に画像の生成、YouTube動画の要約、Webページの要約などを頼んでみました。この中で画像の生成のみ現時点では対応していないようです。

基本操作マスター:日常のワークフローを加速させるコマンド群

Gemini CLIを使いこなす鍵は、その多彩なコマンドを理解することにあります。ここでは、日常的な開発作業を効率化するための基本的なコマンド群を、具体的な使用例とともに紹介します。

対話モードと非対話モード

Gemini CLIには、大きく分けて2つの利用モードがあります。

  • 対話モード(インタラクティブモード): geminiコマンドを引数なしで実行すると開始します。デバッグ、ブレインストーミング、コードのリファクタリングなど、AIと会話しながら段階的に作業を進めたい場合に最適です。

    • 使用例: geminiと入力後、> このプロジェクトのアーキテクチャを説明してのように質問します。
  • 非対話モード(ワンショット実行): 単一のタスクをスクリプトに組み込んだり、パイプでデータを渡したりする場合に使用します。--promptフラグを使うか、標準入力からプロンプトを渡します 。

    • 使用例1: gemini --prompt "README.mdを日本語に翻訳して"
    • 使用例2: cat main.go | gemini "このコードの要約を教えて"

スラッシュコマンド

対話モード中に/で始まるコマンドを入力することで、様々な操作が可能です。

  • /help または /?: 利用可能なすべてのスラッシュコマンドの一覧を表示します。最初に覚えるべきコマンドです。
  • /memory show: AIが現在コンテキストとして認識している情報(GEMINI.mdの内容など)を表示します 。
  • /tools: greplsread-fileなど、現在利用可能な組み込みツールの一覧を表示します。
  • /stats: 現在のセッションでのトークン使用量やAPI呼び出し回数などの統計情報を表示します。
  • /quit または /exit: 対話モードを終了します。

特殊な接頭辞

プロンプトの先頭に特定の記号を付けることで、特別な動作をさせることができます。

  • @<ファイルパス/ディレクトリパス>: 指定したファイルやディレクトリの内容を読み込み、プロンプトのコンテキストに含めます。この機能は.gitignoreファイルを尊重するため、node_modulesのような不要なファイルが除外される点が非常に実用的です。

    • 使用例: @src/components/Button.tsx このコンポーネントにStorybookのドキュメントを追加して
  • !<シェルコマンド>: !に続けてコマンドを入力すると、そのコマンドをシェルで直接実行し、結果を表示します。!単体で入力すると、全ての入力をシェルコマンドとして扱う「シェルモード」のオン/オフを切り替えられます。

    • 使用例: !git diff --staged

主要なフラグ

コマンド実行時に付与するオプションです。

  • --yolo: "You Only Live Once"モードの略。ファイル変更やコマンド実行の際に通常表示される確認プロンプトをすべてスキップし、自動で承認します。強力ですが危険も伴うため、後述のサンドボックス機能と併用することが推奨されます。
  • --sandbox: コマンドをDockerなどの安全なサンドボックス環境内で実行し、セキュリティを強化します 。
  • --model <モデル名>: デフォルトのgemini-2.5-proからgemini-2.5-flash-latestなど、別のモデルに切り替えたい場合に使用します 。

これらのコマンド体系は、Slackなどで馴染みのあるスラッシュコマンド、伝統的なCLIのフラグ、そしてシェル操作の慣習を巧みに融合させており、開発者が直感的に操作できるよう設計されています。

真価を引き出す:Gemini CLIの高度なカスタマイズ術

Gemini CLIの基本操作をマスターした先には、このツールを単なる汎用アシスタントから、特定のプロジェクトに特化した専門家へと変貌させる、より高度なカスタマイズの世界が広がっています。

AIの「憲法」を定める (GEMINI.md)

プロジェクトのルートディレクトリにGEMINI.mdというファイルを作成すると、その内容はAIの振る舞いを規定する永続的なシステムプロンプト、いわばプロジェクトの「憲法」として機能します 2。ここに記述すべきは、単なるドキュメントではありません。

  • コーディング規約: 「TypeScriptを使い、JavaScriptは使わない」「状態管理はReduxではなくZustandを用いる」といった、リンターだけでは強制できない設計思想やルール。
  • アーキテクチャの原則: 「コンポーネントはAtomic Designに従う」「新しいAPIエンドポイントは必ずOpenAPI仕様書に追記する」といったプロジェクトの設計哲学。
  • プロジェクト固有の注意点: 「legacy_api.jsは絶対に触らないこと」「新機能は必ずフィーチャーフラグで保護すること」といった、そのプロジェクト特有の「暗黙の了解」。

これらのルールを最初に定義しておくことで、Gemini CLIはそのプロジェクトの「文化」を理解し、規約に準拠した、より質の高いコードや提案を生成するようになります。/memory showコマンドで、AIがこの憲法を正しく読み込んでいるか確認できます。

AIに「手足」を与える (カスタムツール)

Gemini CLIの最も強力で、まだ十分にドキュメント化されていない機能の一つが、toolDiscoveryCommandによるカスタムツールの追加です。これにより、開発者は独自のスクリプトをGemini CLIのネイティブツールとして連携させ、AIに新たな「手足」を与えることができます。

設定方法は以下の3ステップです。

  1. 発見スクリプトの作成: ツールの名前、説明、引数のスキーマなどを定義したJSONを標準出力するスクリプト(例: scripts/discover_tools.sh)を作成します。
  2. 実行スクリプトの作成: AIからツールが呼び出された際に、実際の処理を行うスクリプト(例: scripts/run_tool.sh)を作成します。
  3. 設定ファイルでの登録: ~/.gemini/settings.jsonファイルに、これらのスクリプトへのパスを登録します。

この機能のユースケースは無限大です。例えば、「DBマイグレーションを実行し、更新されたスキーマ定義をTypeScriptの型ファイルとして出力する」という一連の複雑なタスクを、update_db_schemaという単一のカスタムツールとして登録できます。あるいは、社内のJiraと連携し、「JIRA-123の仕様を読み込んで、実装の雛形を作成して」といった、組織固有のワークフローを自動化することも可能です。

MCP:ツール連携の未来を拓くプロトコル

「カスタムツール」機能の背景には、Model Context Protocol (MCP) という、より大きなビジョンが存在します。MCPとは、AIエージェントと外部ツールが「会話」するための統一された標準規格、いわばツール連携のための共通言語です。

これまで、AIが外部ツール(データベース、API、ローカルスクリプトなど)を利用するには、ツールごとに個別の連携コード(接着剤)が必要でした。しかし、MCPはこの問題を根本から解決しようとします。MCPに準拠したツールは、「自分は誰で(名前)、何ができて(説明)、何の情報が必要か(引数)」を自己紹介できます。AIエージェントは、この自己紹介を理解し、必要に応じてツールを呼び出すことができます。

Gemini CLIの「発見スクリプト」と「実行スクリプト」の仕組みは、まさにこのMCPの思想を具現化したものです。発見スクリプトがツールの自己紹介を行い、実行スクリプトが呼び出しに応答します。

これがなぜ重要かというと、将来的には、世界中の開発者が作成した多種多様なMCP準拠ツールが登場する可能性があるからです。例えば、画像編集ソフトを操作するツール、特定の企業会計システムにアクセスするツール、科学技術計算ライブラリを実行するツールなどが「MCPマーケット」のような場所で公開されるかもしれません 。開発者は、それらのツールをsettings.jsonに一行追加するだけで、Gemini CLIに新たな能力を即座に授けることができるようになるのです。

このMCPによる開かれたエコシステムこそが、Gemini CLIを単なるGoogle製ツールから、無限の拡張性を持つ開発プラットフォームへと昇華させる鍵となります。

CI/CDへの組み込み

非対話モードと自律的なタスク実行能力を組み合わせることで、Gemini CLIはCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)パイプラインの強力な一部となり得ます 1。例えば、プルリクエストが作成された際に自動でトリガーされ、「このプルリクエストの変更点を読み込んで、ドキュメントのドラフトを生成し、コメントとして投稿する」といった処理を自動化できます。

これらの高度な機能は、Gemini CLIが単に使用されるだけのツールではなく、開発ワークフローに深く統合され、拡張されることを前提とした「プラットフォーム」としての設計思想を明確に示しています。その真価は、このプログラマビリティを最大限に活用することで引き出されるのです。

AIエージェント戦国時代:ライバル製品との徹底比較

Gemini CLIの登場により、AIを搭載したターミナルエージェント市場は一気に活性化し、「戦国時代」の様相を呈しています。開発者が最適なツールを選択できるよう、ここでは主要なライバル製品との比較を客観的なデータに基づいて行います。比較対象は、特にこの分野で先行し、多くの開発者から支持を集めているAnthropic社の「Claude Code」と、広範なエコシステムを持つ「GitHub Copilot」です 。

以下の比較表は、各ツールの主要な特徴をまとめたものです。

特徴 Gemini CLI Claude Code GitHub Copilot CLI
基盤モデル Gemini 2.5 Pro Claude 3.x (Opus/Sonnet) GPT-4 シリーズ
無料利用枠 非常に寛大 (1,000リクエスト/日) 限定的または無し GitHub Copilotサブスクリプションに付属
価格設定 無料 / 従量課金 サブスクリプションベース ($20~/月) サブスクリプションに付属
コンテキストウィンドウ 100万トークン 20万トークン  モデルにより変動
オープンソース はい (Apache 2.0)  いいえ はい (MITライセンス)
主要な差別化要因 Google検索連携、マルチモーダル 高度なエージェント的推論能力  GitHubとの深い統合

この比較から、いくつかの重要な戦略の違いが浮かび上がります。

  • 価格とアクセス性: Gemini CLIの最大の武器は、その圧倒的に寛大な無料利用枠です。1日1,000リクエストという制限は、多くの個人開発者にとっては実質的に無制限に近く、月額20ドル以上を支払う必要があるClaude Codeの価格体系に真っ向から挑戦するものです。これは、まず市場シェアを確保しようとするGoogleの典型的な戦略です。
  • 性能と品質: 性能面では一長一短があります。Gemini 2.5 Proは処理速度が速いと評価されている一方で 23、複雑なタスクにおけるエージェントとしての推論能力や、修正なしで動作するコードを生成する精度については、現時点ではClaude Codeに軍配が上がるとの初期報告も複数見られます。
  • エコシステムと哲学: GoogleはApache 2.0という寛容なライセンスでオープンソース化し、コミュニティの力を活用しようとしています 。対照的にClaude Codeはクローズドソースです。また、Gemini CLIはGoogle検索という独自の強力な武器を持つのに対し、GitHub Copilot CLIはリポジトリのIssueやプルリクエストとの連携など、GitHubエコシステムとの深い統合が強みです。
  • プラットフォームサポート: Gemini CLIがWindows Subsystem for Linux (WSL)を必要とせず、Windowsにネイティブ対応している点は、一部の競合に対する明確な利点です 。

結論として、現時点では「無料で始められ、Google検索の恩恵を受けたいならGemini CLI」「多少コストをかけてでも最高峰の推論能力を求めるならClaude Code」「GitHub中心のワークフローを強化したいならGitHub Copilot」という棲み分けが見られます。しかし、この競争はまだ始まったばかりであり、各ツールの進化から目が離せません。

公平な視点:Gemini CLIの現状の課題と限界

Gemini CLIは大きな可能性を秘めていますが、現状はプレビュー版であり、完璧なツールではありません。信頼できる評価のためには、その課題と限界についても正直に目を向ける必要があります。

プレビュー版としての不安定さ

リリース直後から、ユーザーコミュニティでは「バグが多い」「動作が遅い」「時々使い物にならない」といった報告が散見されます 。特にローンチ当初は、寛大なはずの無料枠でもレート制限に頻繁に遭遇するという問題も指摘されました 。これらの不安定さは、プレビュー段階の製品にはつきものですが、安定した開発環境を求めるユーザーにとっては大きな懸念点です。

クラウドAPIへの依存

Gemini CLIのエージェント自体はローカルで動作しますが、その「脳」であるGeminiモデルはクラウド上で実行されます。したがって、常時インターネット接続が必須であり、オフライン環境では機能しません。また、現時点ではGoogleが開発する軽量なローカルモデル「Gemma」などを利用するオプションはなく、完全にクラウドAPIに依存しています。

無料利用枠の不確実性

Googleの公式ブログでは、現在の寛大な無料利用枠について「このプレビュー期間中(during this preview)」という但し書きが付けられています 1。これは、製品が正式版(General Availability)に移行した際に、利用条件が変更される可能性を示唆しています。このツールを基盤に長期的なワークフローを構築しようと考えている開発者にとって、この不確実性は考慮すべきリスクです。

AIモデル固有の課題

Gemini CLIは、基盤となるAIモデルが持つ本質的な課題も引き継いでいます。

  • 過剰な慎重さ: AIの安全性を重視するあまり、一部のユーザーからは、正当な技術的質問(例えば、特定の歴史的出来事に関するソフトウェアの失敗事例など)に対しても「センシティブな話題」として回答を拒否することがある、という指摘がなされています。
  • 正確性とバイアス: 全てのLLM(大規模言語モデル)に共通する課題ですが、出力には不正確な情報や、学習データに由来するバイアスが含まれる可能性があります 30。生成されたコードや情報は、鵜呑みにせず常に検証が必要です。
  • タスク遂行能力の限界: 自律的なエージェントとはいえ、意図を誤解したり、意味のないループに陥ったり、指示通りに動作しないコードを生成したりすることも依然として起こります 。完璧な自律性を期待するのではなく、あくまで「支援ツール」として捉える現実的な視点が求められます。

これらの課題は、Gemini CLIの壮大なビジョンと、まだ発展途上にあるプレビュー製品という現実との間に存在するギャップを示しています。Googleがユーザーの信頼を維持するためには、これらの課題に真摯に取り組み、期待値を適切に管理していくことが重要になるでしょう。

まとめ:Gemini CLIは開発者の未来をどう変えるか

GoogleのGemini CLIは、単なる新しいコマンドラインツールではありません。それは、開発の未来がどのようなものになるかを垣間見せる、パラダイムシフトの兆候です。

本記事で詳述してきたように、Gemini CLIの強みは多岐にわたります。Gemini 2.5 Proがもたらす100万トークンという広大なコンテキストウィンドウ、市場の常識を覆す寛大な無料利用枠、Google検索との深い統合によるリアルタイムな情報アクセス、そしてオープンソースとMCPによる拡張性。これらが組み合わさることで、Gemini CLIは新興の「ターミナルエージェント」カテゴリにおいて、最も有力な競争相手の一つとしての地位を確立しました。

もちろん、プレビュー版である現時点では、動作の不安定さやクラウドへの完全依存、AIモデル固有の課題といった限界も存在します。しかし、これらは技術の成熟とともに改善されていく可能性が高いものです。

重要なのは、Gemini CLIが提示する開発スタイルの変化です。自然言語でAIエージェントと対話し、ファイルの読み書きからコマンド実行、複雑なリファクタリングまでを委任する。GEMINI.mdやカスタムツールによって、AIをプロジェクト専用に「教育」し、ワークフローに深く組み込む。これは、開発者が「コードを書く人」から、AIという強力なジュニア開発者を「監督・指導する人」へと役割を変えていく未来を示唆しています。

この変化の波に乗り遅れないために、開発者にとって今が絶好の機会です。Googleが提供する前例のない無料利用枠を活用し、Gemini CLIを自らのターミナルに導入し、AIと共創する新しい開発体験を自らの手で試すことができます。これは、未来のテクノロジーを低リスク・高リターンで探求する、またとないチャンスと言えるでしょう。

参考資料

  1. Gemini AI Terminal Based Chatbot, https://ai.google.dev/competition/projects/gemini-ai-terminal-based-chatbot?hl=zh-cn
  2. Introducing Gemini CLI, https://blog.google/technology/developers/introducing-gemini-cli/
  3. Google Cloud CLI, https://cloud.google.com/sdk/docs/
  4. Gemini for Google Cloud pricing, https://cloud.google.com/products/gemini/pricing
  5. Google I/O 2024 で発表された Project IDX, Gemini in Android Studio, Gemini Code Assist の新機能まとめ, https://zenn.dev/google_cloud_jp/articles/8911c960113904
  6. Google、AIエージェント「Gemini CLI」発表。ターミナルで対話的にAIコーディング, https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/2025845.html
  7. Google、オープンソースのAIエージェント「Gemini CLI」を発表, https://forest.watch.impress.co.jp/docs/news/2025870.html
  8. 【徹底解説】Gemini CLI vs Claude Code:ターミナルAI頂上決戦!, https://qiita.com/kyuko/items/b7f7336057859f5c9b4f
  9. Gemini CLI, https://ai.google.dev/competition/projects/geminicli?hl=ja
  10. Gemini CLI の内部実装から学ぶ、大規模言語モデルをローカルで飼い慣らすための5つのハック, https://gist.github.com/mizchi/53fee8a015bb8f74a3e832bf92661fb5
  11. 【神ツール】Gemini CLIがやばい。ターミナルからAIを操作。無料・無制限は熱い。, https://www.youtube.com/watch?v=5eFwDM56kf0
  12. グーグル、Gemini 2.5 ProとFlashのベンチマーク結果を公開 圧倒的性能と効率性を実現, https://k-tai.watch.impress.co.jp/docs/news/2025948.html
  13. グーグルジェミニCLIについて知っておくべきこと, https://ts2.tech/ja/%E3%82%B0%E3%83%BC%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%9F%E3%83%8Bcli%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E7%9F%A5%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%8A%E3%81%8F%E3%81%B9%E3%81%8D%E3%81%93%E3%81%A8/
  14. Gemini Code Assist / Gemini API の学習データ利用について, https://zenn.dev/aun_phonogram/articles/9c687152027354
  15. Gemini CLI のご紹介: オープンソースの AI エージェント, https://cloud.google.com/blog/ja/topics/developers-practitioners/introducing-gemini-cli
  16. Gemini CLI, https://note.com/npaka/n/nd5231d296687
  17. Gemini CLI - MCP Market, https://mcpmarket.com/ja/server/gemini-cli
  18. システム指示の作成, https://cloud.google.com/vertex-ai/generative-ai/docs/learn/prompts/system-instructions?hl=ja
  19. Gemini Code Assist and the Gemini CLI, https://developers.google.com/gemini-code-assist/docs/gemini-cli
  20. GitHub - google-gemini/gemini-cli: An open-source AI agent that brings the power of Gemini directly into your terminal., https://github.com/google-gemini/gemini-cli
  21. Gemini CLI: your open-source AI agent, https://blog.google/technology/developers/introducing-gemini-cli-open-source-ai-agent/
  22. Everything You Need To Know About Google Gemini CLI, https://ts2.tech/en/everything-you-need-to-know-about-google-gemini-cli-features-news-and-expert-insights/
  23. Google introduces Gemini CLI, a light open-source AI agent that brings Gemini directly into the terminal, https://www.reddit.com/r/singularity/comments/1lk5h19/google_introduces_gemini_cli_a_light_opensource/
  24. gcloud CLI の概要, https://cloud.google.com/sdk/gcloud
  25. 【完全版】Google製AIエージェント「Gemini CLI」の使い方ガイド, https://zenn.dev/schroneko/articles/gemini-cli-tutorial
  26. Getting Started with Gemini CLI, https://medium.com/google-cloud/getting-started-with-gemini-cli-8cc4674a1371
  27. Google Releases Open-Source 'Gemini CLI' Agent for Developer Terminals, https://pureai.com/articles/2025/06/25/gemini-cli.aspx
  28. Google's FREE & Open Source AI Agent - Gemini CLI, https://www.youtube.com/watch?v=T76NbeTdDFA
  29. Google (GOOG) Introduces Gemini CLI for Enhanced Developer Experience, https://www.gurufocus.com/news/2946129/google-goog-introduces-gemini-cli-for-enhanced-developer-experience-goog-stock-news
  30. GOOGL: Google Introduces Gemini CLI to Enhance AI Coding, https://www.gurufocus.com/news/2945591/googl-google-introduces-gemini-cli-to-enhance-ai-coding
  31. GitHub - eliben/gemini-cli: Access Gemini LLMs from the command-line., https://github.com/eliben/gemini-cli
  32. GitHub - hitsmaxft/gemini-cli: Gemini CLI: A CLI Tool for Google Vertex Generative AI , Gemini Pro., https://github.com/hitsmaxft/gemini-cli
  33. Gemini CLI, https://simonwillison.net/2025/Jun/25/gemini-cli/
  34. GitHub - reugn/gemini-cli: A command-line interface (CLI) for Google Gemini., https://github.com/reugn/gemini-cli
  35. The Gemini CLI GitHub is live!, https://www.reddit.com/r/Bard/comments/1lk5i3c/the_gemini_cli_github_is_live/
  36. GitHub - bmsohwinc/gemini-cli: Simple CLI to chat with gemini., https://github.com/bmsohwinc/gemini-cli
  37. Google Releases Open-Source 'Gemini CLI' Agent for Developer Terminals, https://pureai.com/articles/2025/06/25/gemini-cli.aspx
  38. Gemini CLI is free, https://belitsoft.com/news/gemini-cli-free-20250625
  39. Using Gemini in GitHub Copilot, https://docs.github.com/copilot/using-github-copilot/ai-models/using-gemini-in-github-copilot
  40. Gemini-cli smells really good, https://www.reddit.com/r/GithubCopilot/comments/1lkghls/geminicli_smells_really_good/
  41. Google positions itself for next decade of AI as Gemini CLI arrives with generous free tier, https://devclass.com/2025/06/25/google-positions-itself-for-next-decade-of-ai-as-gemini-cli-arrives-with-generous-free-tier/
  42. Gemini released an open source CLI tool similar to Claude Code, https://www.reddit.com/r/LocalLLaMA/comments/1lkbiva/gemini_released_an_open_source_cli_tool_similar/
  43. Claude Code vs Gemini CLI: Initial Agentic Comparison, https://www.reddit.com/r/ClaudeAI/comments/1lkew5x/claude_code_vs_gemini_cli_initial_agentic/
  44. Google's Gemini CLI Just Killed Claude's $200/mo Pricing Model, https://dev.to/shayy/googles-gemini-cli-just-killed-claudes-200mo-pricing-model-4afn
  45. Gemini CLI, https://simonwillison.net/2025/Jun/25/gemini-cli/
  46. Gemini CLI: Google's Open-Source Answer to Claude Code, https://apidog.com/blog/gemini-cli-google-open-source-claude-code-alternative/
  47. Gemini CLI vs Claude: Who is the winner?, https://www.youtube.com/watch?v=QW_R40nNPp4
  48. Google's FREE & Open Source AI Agent - Gemini CLI, https://www.youtube.com/watch?v=pK_MhC37s_s
  49. Alternative to Gemini, https://www.pageon.ai/blog/alternative-to-gemini
  50. Google releases Gemini CLI - with full MCP Support, https://www.reddit.com/r/mcp/comments/1lk5ous/google_releases_gemini_cli_with_full_mcp_support/
  51. Claude.ai SUCKS compared to Gemini 2.5 Pro, https://www.reddit.com/r/ClaudeAI/comments/1jl61g5/claudeai_sucks_compared_to_gemini_25_pro/
  52. Google unveils Gemini CLI for developers: 5 critical features of the open-source AI agent, https://m.economictimes.com/news/international/us/google-unveils-gemini-cli-for-developers-5-critical-features-of-the-open-source-ai-agent-google-gemini-cli-news-ai-news/articleshow/122074841.cms
  53. I tested Gemini Live for 24 hours — the good, the bad and the weird, https://www.tomsguide.com/ai/google-gemini/i-tested-gemini-live-for-24-hours-the-good-the-bad-and-the-weird
  54. I Compared The 3 Best AI Chatbots (with tests), https://www.youtube.com/watch?v=Uy6LcpyGj7w
  55. Quotas and limits for Gemini for Google Cloud, https://cloud.google.com/gemini/docs/quotas
  56. Gemini CLI - Keep in mind free limit may not be forever, https://www.reddit.com/r/Bard/comments/1lkd89g/gemini_cli_keep_in_mind_free_limit_may_not_be/
  57. Getting Started with Gemini CLI, https://medium.com/google-cloud/getting-started-with-gemini-cli-8cc4674a1371
  58. Google introduces Gemini CLI, an open-source AI agent, https://news.ycombinator.com/item?id=44373754
  59. Gemini CLI: Free Open-Source Coding Agent by Google, https://www.analyticsvidhya.com/blog/2025/06/gemini-cli-free-open-source-coding-agent-by-google/
  60. Gemini CLI: your open-source AI agent, https://blog.google/technology/developers/introducing-gemini-cli-open-source-ai-agent/

コメント

タイトルとURLをコピーしました