はじめに
近年、人工知能(AI)技術はソフトウェア開発の現場に大きな変革をもたらしつつあります。コード生成、UIデザイン、テストなど、これまで開発者が手作業で行ってきた多くのタスクがAIによって効率化され、より創造的な作業に集中できる環境が整いつつあります。
このようなAI開発の潮流の中で、今注目を集めているのが Fragments です。Fragmentsは、E2Bによって開発されたオープンソースのAI開発プラットフォームです。利用方法としては、主に以下の3つがあります。
- ホスト版プラットフォーム を利用する
- オープンソース版デモサイト を利用する
- オープンソース版をダウンロードしてセルフホストする
本記事では、この革新的なプラットフォーム Fragments の全貌を徹底的に解説し、これら3つの利用方法それぞれの特徴や始め方、コストについて深く掘り下げていきます。
Fragments とは?
Fragmentsは元々、E2Bによって開発されたオープンソースプロジェクトであり、「AI × コード生成/実行」プラットフォームとして位置づけられています。その中核技術はGitHubで公開されており、誰でも利用・改変が可能です。
このオープンソースプロジェクトを体験・利用するには、主に以下の方法があります。
- ホスト版プラットフォーム : E2Bが提供する、セットアップ不要ですぐに利用できるサービスです。利便性が高い反面、無料プランと有料プランが用意されているようです(詳細は公式サイトの料金ページを参照)。プランによっては機能やリソースに制限がある場合があります。現時点(2025年4月14日)では、「順番待ちリスト」に登録するようになっていました。
- デモサイト : E2Bが公開しているオープンソース版のデモ環境です。無料でFragmentsの基本的な機能を試すことができますが、あくまでデモ用であり、利用に制限がある可能性があります。
- セルフホスト: GitHubからソースコードを取得し、自身のサーバー環境に構築する方法です。最も自由度が高く、カスタマイズも可能ですが、インフラの準備や設定、運用コストが必要になります。
どの方法を利用するにしても、その核となるのは、ブラウザ上で作りたいUIやアプリケーションのイメージをテキストや画像でAIに伝えると、AIがコードを生成し、即座にプレビューを表示するという革新的なワークフローです。
Fragmentsは、Next.js 14をベースとしたAI生成のウェブアプリを構築できるオープンソーステンプレートであり、モダンなウェブ開発に必要な技術を基盤としています。
また、AIが生成したコードを安全に実行するための隔離環境である E2B Sandbox 技術が、すべての利用形態において重要な役割を担っています。
主な機能と技術要素
Fragments は、利用形態に関わらず共通の強力な基盤技術を持っていますが、一部の機能(特にカスタマイズ性)はセルフホスト版でより顕著になります。
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基盤技術:
- Next.js 14: 高速でスケーラブルなウェブアプリ開発基盤。
- TailwindCSS: 柔軟なUIスタイリング。
- shadcn/ui: 洗練されたUIコンポーネント。
- Vercel AI SDK: ストリーミングなどの高度なAI連携機能。
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AIコード生成と安全な実行:
- E2B SDK: AI生成コードをセキュアなサンドボックス内で実行。
- 高速なサンドボックス起動: 約150ミリ秒でのスムーズな実行環境起動。
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UIプレビュー:
- 即時プレビュー: ブラウザ上で生成コードをすぐに確認。
- リアルタイムストリーミング: 生成・実行状況をリアルタイム表示。
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高い拡張性と柔軟性 (主にセルフホスト版):
- 豊富なパッケージ利用: npm/pipパッケージの利用。
- 多様な開発スタックのサポート: Python, Next.js, Vue.js, Streamlit, Gradioなど。(セルフホスト版ではカスタムスタック追加も可能)
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多様なLLMプロバイダのサポート:
主要プロバイダに対応: OpenAI, Anthropic, Google AI, Mistralなど多数。
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高度なカスタマイズオプション (主にセルフホスト版):
- カスタムペルソナ: AIの振る舞いを調整。
- カスタムLLMモデルとプロバイダ: 独自のモデルやプロバイダを統合。
競合ツールとの比較
「ブラウザ上でAIがコードを生成し、すぐに実行・プレビュー可能」というツールは他にもあります。Fragments を(3つの利用形態を含めて)競合と比較した場合の主な特徴は以下の通りです。
- 複数のモデルプロバイダーを柔軟にサポート。
- E2B Sandboxによる安全かつ自由度の高い実行環境。
- 3つの利用形態を提供:
- フルスタック開発支援(フロントエンド生成+バックエンド実行)。
オープンソースであることの意義
Fragments がオープンソースであることは、ユーザーにとって多くの重要な利点をもたらします:
- 無料での利用: 基本的に無料で利用できるため、AI駆動型開発を試したい開発者や愛好家にとって、参入障壁を大幅に下げます。
- コミュニティによる改善: 世界中の開発者がコードを閲覧、修正、貢献できるため、バグの早期発見や新機能の開発が期待でき、プラットフォームがより堅牢で機能豊富に進化する可能性が高まります。
- コードの透明性: コードベースが公開されているため、開発者はFragmentsがどのように機能するかを詳細に理解し、セキュリティメカニズムを検証することで、プラットフォームへの信頼を築くことができます。
- 高いカスタマイズ性と拡張性: ユーザーは、元の開発者によって提供された機能に限定されることなく、カスタムペルソナ、スタック、LLMプロバイダなどを自由に追加・修正し、特定のニーズに合わせてプラットフォームをカスタマイズできます。
- 自己ホスティングの自由: ローカル環境や自社クラウドにFragmentsを自己ホストするオプションがあるため、データと開発環境を完全に制御でき、プライバシーやセキュリティ要件の高いプロジェクトにも対応できます。
- 長期的な持続可能性: オープンソースプロジェクトは、単一の企業に依存しないため、非公開なソフトウェアよりも長寿命で持続可能である傾向があります。コミュニティがプロジェクトを維持し、進化させることができます。
- 知識の共有とイノベーションの促進: コードを公開することで、AI駆動型開発ツールの理解と進歩に貢献し、開発者にとって貴重な学習リソースとなり、さらなるイノベーションを促進します。
無料利用の始め方
Fragments を始める方法は、選択する利用形態によって異なります。
- ホスト版 の利用:
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デモサイト の利用:
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デモサイト にアクセスします。
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GitHub、Google、メールアドレスアカウントで登録します。
細かい手順は省略。 -
表示されるインターフェースで、機能を試します。
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デモサイト にアクセスします。
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オープンソース版のセルフホスト:
セルフホスト版のセットアップ手順については、公式のGitHubリポジトリにあるドキュメントをご参照ください。環境構築、APIキー設定、カスタム設定などが解説されています。
活用事例
Fragments by E2Bは、様々な開発の現場で活用できる可能性を秘めています:
- ウェブアプリケーション開発: Next.jsやVue.jsをベースとしたインタラクティブなウェブインターフェースやアプリケーションをAIの生成コードによって迅速に構築できます。
- データ分析と視覚化: Python、Streamlit、Gradioなどのスタックを活用して、AIの洞察に基づいたデータ分析ツールや視覚化ツールを開発できます。財務追跡アプリケーションの構築例などが考えられます。
- 教育ツール: Pythonインタプリタなどのサポートを利用して、インタラクティブなコーディング演習やデモンストレーションを作成できます。
- 迅速なプロトタイピング: 大規模な手動コーディングなしに、AIの力でアプリケーションのアイデアを素早く生成し、テストすることができます。
- カスタムAIエージェント: カスタマイズオプションを通じて、特定のペルソナと機能を持つ特殊なAIエージェントを構築できます。
- 既存ウェブサイトのクローン作成: スクリーンショットを基に、既存のウェブサイトのクローンをFragmentsで作成する、といった応用も考えられます。
簡単な実践
シンプルなToDoアプリの作成を試みました。
条件は以下の通り。
- プロンプト:Next.js 14とTailwind CSSを使ったシンプルなToDoアプリを作成してください。タスクの追加・削除・完了状態の切り替えが可能で、ローカルストレージにデータを保存する機能を含めてください
- AI:Claude 3.7 sonnet
- 結果(下図を参照):動作を確認
まとめと今後の展望
Fragments は、AIによるアプリケーション構築を支援する、強力で汎用性の高いプラットフォームです。モダンなウェブ技術、安全なコード実行環境、多様なLLMサポート、そして(特にオープンソース版における)広範なカスタマイズオプションがその強みです。
利用者は、手軽なホスト版 、デモ版、自由度の高いセルフホスト版 (オープンソース) という3つの選択肢から、自身の目的やスキル、予算に合わせて最適な方法を選ぶことができます。この柔軟性がFragmentsの大きな魅力と言えるでしょう。
AIがソフトウェア開発の中心的な役割を担う未来において、Fragments は開発プロセスを加速させる重要な推進力となる可能性を秘めています。
ぜひ、ホスト版 、デモ版 を試したり、GitHubでFragmentsのリポジトリを探求したりして、ご自身のプロジェクトで活用してみてください。
おわりに
Fragments は、AIを活用した開発の可能性を大きく広げるプラットフォームです。ホスト版、デモ版、セルフホスト版という3つの選択肢を理解し、ご自身の目的に合った方法で活用することで、開発体験はより豊かなものになるでしょう。本記事が、皆様の開発の一助となれば幸いです。
以上です。
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